超戦闘機出撃 田中光二
田中光二氏の仮想戦記物である。
田中光二氏といえば当初はハードSFで、平成に入ってから少したった頃から仮想戦記物を書き出したと思う。
最初の仮想戦記は連合艦隊シリーズで、日本海軍が太平洋戦争に突入してからの戦史を緻密に調査して
ほんの少しの「If」を導入して日本優位に進めていく。というスタイルだった。
仮想戦記物は好きである。
檜山良昭氏と田中光二氏の物を夢中で読みふけった時期もある。
田中光二氏が上記のスタイルだったのに対し檜山氏はいわゆる「タイムスリップ」物だった。
現代の自衛隊が何らかの事象により(自然現象であったり、実験であったりした)太平洋戦争当時に時空移動してしまい、
歴史に介入するというストーリーのスタイルだった。
どちらも面白かったが、田中光二氏のは特にどこが「If」なのかよくわからず、戦史を調べたりした。
その作家としての態度には感銘も受けていたと思う。
小説家は、調べることが基本だと思う。田中氏の場合は乗組員の名前や性格まで調べられる限り調べていたようである。
私事であるが、田中光二氏の本の中に登場する巡洋艦の乗組員の中に、父の知人の父上が実際に乗艦していたのである。
機関砲手であり、敵機を撃墜したところまで描写されていた。実史なのである。
本当に史料に当たっていかないと描写出来ないであろう場面が多々あり、本物の興奮を小説から味わっていたように思う。
さて、本作「超戦闘機出撃」は今の田中光二氏の作品である。
未来人が太平洋戦争に介入し、未来世界から当時の兵器に似せた超兵器を持ち込んで、日本側に無理やり勝利させるという
パターンである。
このスタイルの方が、本が売れたのだろうか。
確かに、カタルシスは味わえるが、何か本物の「カタルシス」ではないような気がする。
未来人が持ち込む超兵器がともかく途方もないのである。
超巨大空母であったり、戦時中に計画していた重爆撃機「富嶽」に似せた未来兵器であったりでこれらがあれば日本が勝って
当たり前って感じで展開していく。
本作で登場するのは、なんとジェット戦闘機や対艦ミサイル、ホーミング魚雷などの豪華版。
アメリカ側も1950年代に登場するはずのF86セイバージェット戦闘機を出してきたりするのだが、それよりも日本側がずっと
優勢である。
ともかく何が何でも日本に無理やり勝たせようとしている。
随所に、戦史のウンチクをちりばめるのだが、それこそ昔とった杵柄であろう。
このように何でもありならば、私でも書けそうな気がする。
編集者からの依頼なのだろうか。もしそうだとしても唯々諾々と受けるのはどんなものであろうか。
連合艦隊シリーズの田中光二はどこへ行ったのだろうか。
そこに戻ってほしいと切望している。
ところで、私が手に入れたのが2007年4月版で初版だった。
たまたまなのかもしれないが、もしかしたらあまり売れてないのかもしれない。
仮想戦記物がもう旬ではなくなってしまったが、田中氏の今の作品は大いなるマンネリである。
しまった。写真が撮れない。この前ブックオフに出しちゃった。
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