上下巻1000ページに及ぶ大書です。
え~とっ。
この話整理しないとよく理解できないぞ!。
完全なネタ晴らしになってしまうけど、これがわかっていても十分楽しめると思われるので整理させてください。
ネタ晴らしが嫌な方はここから先はオミットで……
前半はバンバン人が死んでいくもんな。
まず、3系統の殺人計画が底流にあった訳だ。
すべて昭和13年の「津山30人殺し」の犯人、「都井睦雄」の因縁によって引き起こされている。
①犬坊菊子による加納通子 ユキ親子の殺害計画。
②「都井睦雄」に恨みを抱く犬坊由利子の子孫、二宮佳世による加納通子 ユキ親子への殺害計画。
ちなみに加納親子は「都井睦雄」の血を引いている。そして犬坊菊子、犬坊由利子ともに「都井睦雄」の血を絶やすことを願っており犬坊由利子は子々孫々までそれを宿願として伝えている。
③龍臥亭の調理人「藤原」による犬坊一男への殺人計画。
藤原の目的は犬坊育子を自分のものとするためその夫である犬坊一男を殺害するという目的がある。
ここで藤原は「都井睦雄」が生前書いていた猟奇殺人計画書「昭和7年の天誅」を手に入れて①②で殺害された人々の死体を盗み出し猟奇殺人計画書「昭和7年の天誅」に出ているとおりの死体加工をしてみせる。そのため非常に捜査が難航する。
それにしても、①②では目的の加納親子は無事で無関係の人々がぼろぼろ死んでいく。
トリックとして犬坊菊子が庭に作らせた龍の頭による自動照準装置を使って、「都井睦雄」の猟銃を差し込んで引鉄を引くだけで加納親子の部屋を撃つことができるせっかくの装置を菊子は老齢なため目が良く見えず狙撃に失敗して無関係の人々を次々に撃ち殺してしまい、良心の呵責に耐え切れずにその同じ猟銃で自殺してしまう。
そのため死体の数が膨れてしまったのだ。
結局、加納親子は無事で①②の犯人は死んでしまい、③の藤原は警察に捕まる。
ひどく込み入ったストーリーになっている。
今回は御手洗潔は直接登場せず、推理作家としての石岡一巳が謎解きに挑戦するというスタイルをとっている初めてのケースである。それにしても込み入ったストーリーだ。
島田荘司のいうところの「コード多用型の館ミステリー」なのだ。
島田はここで様々な実験をしている。「料理人や執事に重要な役どころを振ってはならない」というタブーへの挑戦や、「犯人を含むすべての登場人物は物語の初期段階で登場させなければならない」というタブーにも挑戦している。
確かに、調理人藤原が犯人の一人だというところは否定しない。それに対する違和感はない。
しかし、琴職人の樽元純夫が龍臥亭の地下にずっと住み着いていて、「都井睦雄」の血を引く加納親子を護っていた。ということは読者の誰もが想像の埒外にあるのではないだろうか。しかもそれは、この物語の最後に登場するのだ。
この辺りはやはりミステリーの横紙破りではないだろうか。
しかし、読後感想としては面白いということに尽きる。この物語を構築するにあたり島田荘司の労力に対して大いに敬意を払わなければならないと思う。
さて次に「都井睦雄」による「津山30人殺し」の真相である。
島田荘司は、一般的に流布されている「津山事件」があまりにも現実からかけ離れているためこれをこの本により訂正したいという目的を持っていた。
「津山事件」はそれを下敷きにした横溝正史の「八つ墓村」の陰惨なイメージの基にまた、それを非常に拡大解釈した野村芳太郎の同名映画の演出の凄さによって現在の我々のイメージは作られていると思われる。
つまり「津山事件」の犯人の鬼畜の所業の数々というイメージである。
しかし、「津山事件」の実態は村の淫風としての夜這いがあったという事実である。都井睦雄は秀才であり村の子供たちを集めて自分で作った話や子供用に自分でアレンジした話を提供していた。
しかし、睦雄も男であり性欲の処理には困っていたので、村の様々な女性に対して夜這いを掛けた。これは村では表面には出てこないが裏面では誰もが行なっていることだった。
ただ、問題だったのは、彼が肺病病み(結核)であったことだ。現在のエイズのような感じだったのであろう。
彼はこれをひた隠しにしていたが、遂に発覚して、関係していた女性たちが一斉に彼を攻撃し、彼を排撃した。
都井睦雄は彼女たちに復讐を誓い、準備を始めるのだった。
そして、準備が用意周到に達したとき、彼は躊躇なく復讐を始めるのだった。
確かに周到な準備がないと30人も殺害できない。これは、発狂して突発的にしたとする世間のイメージからはかけ離れている。
それにしても30人である。確かに異常な事件である。
しかし、その根本原因は日本的な弱い者虐めなのだ。そして行儀よさへの強制。
そのような規範から外れるとき、排撃され村八分にされる。日本的な因習と正当なもののみしか認めない道徳観の強制。
それが、「津山30人殺し」の真相なのである。
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